三つの画題(松、竹、梅)が文人の理想を描いたもの──とは何処かで読んだ覚えがあるものの、そうした型についてとんと関心を持てないために、時々に生ける花であったり、季節に応じて正面の向きを変える少しの所作の方についつい愉しみを覚えてしまいます。
南画など見ていると、人生のかなり深刻な問題を扱っているとは気づかれぬように、わざとどこにでもあるものを描いていると感じることもあって、何も始まらず、何も起こらない1日の憂いが、平凡な問題ながらに不安に満ちていることを、何とかおかしみにしようという試みもあろうかという気がします。
古九谷など手にするのは実のところ初めてで、香炉などは別段使わないのですが、そこに構図として描かれているものが清々しい。多色でも、金彩がよく残っているでもなく、色は剥落に傾いているのに、却って生彩豊かなものに映るのは日本人の美意識に拠るものでしょうか。その癖、寂しい感じがしないので、精神上のより重要な温かさが灯っているようにさえ感じられます。
火舎(ほや)と呼ばれる香炉の蓋は純銀のものが誂えられており、香炉とよく調和がとれています。縁に古い金繕いの他、疵が見られるのは少々惜しいところではありますが、未だ鑑賞の生命を保っていますので、長く手元に置いて愉しんでいただきたい物です。
古箱が付属します。
古九谷香炉 ( 江戸前期 ) 外径 7.4 cm – 高さ 7 cm / 売約済み
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