劉生が若き頃に描いたという水彩画は油彩のように風景を強く刻んでいるというのか、淡い色調の中に輪郭のはっきりとした景色があるのを観て得難い感動がありました。油彩はなお素晴らしかった。あれは色彩の画だと思う。あるいは形なのだろうか。「’在るということの神秘’」を考えた劉生の静物画にはそこに佇む気配があり、あくまでも美を見出される余地しかない物質を対象とした洞察の働きを観る者に与えるのだと感じます。気配というと曖昧で観念的なもののように思われるのですが、劉生の描いた風景が景色ではなく情景的なものであるのも、そうした観念を心象化してこそ描けるものがあるのだということを感じさせてもらえました。これは道具を扱うお店が普段から接している目線にそのまま通じることで、改めて感じ入るものがあります。
作品に説得されるのではなく、あくまでも腑に落ちた感覚というものが何とも心地良く、人生の抽象から離れ、実在に目を向けるということの真価に気づかされる展示です。
当店より徒歩圏内です。ぜひご覧下さい。
岸田吟香・劉生・麗子
知られざる精神の系譜
2014年2月8日~4月6日
世田谷美術館より徒歩15分